2010年7月アーカイブ

大変時間がたってしまいましたが、昨年12月、会津の「知事抹殺」出版記念で行われた神保哲生氏、下村満子氏の講演をアップいたしました。

メディア、ジャーナリズムの体質と倫理が遡上にあがって久しいですが、
気鋭のジャーナリストお二人のお話はジャーナリストの職業倫理と矜持が感じられる価値の高いものだと考えますので共有させていただきます。
・下記のリンクをクリックいただくとWindows Media Playerがたちあがります。

★神保哲生氏
 ・講演【前半】35分37秒
 ・講演【後半】34分04秒

★下村満子氏
 ・講演 24分32秒

講師のお二方に、改めて御礼申し上げます。

コメント(0) スタッフ

前エントリーに続き、昨年高裁判決前後に月刊FACTAに掲載された記事を転載させていただきます。

本12月号記事では、高裁判決を受け、その評価と背景を取材されています。


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■2009年12月号
【福島汚職「賄賂0円」判決の前代未聞】
有罪となったが、「無形の賄賂」と苦しいレトリック。佐藤栄佐久前知事の執念の前に、特捜部は顔色なくす。

10月14日、東京・霞が関の裁判所合同庁舎。東京高裁の622号法廷で午後1時半の開廷直後、判決主文が言い渡された。記者たち十数人が入り乱れて飛び出してくる。携帯電話で司法記者クラブや新聞、テレビの社会部に速報する切迫した声が、廊下にこだました。


「有罪です。栄佐久被告が懲役2年、執行猶予4年。祐二被告が懲役1年6月、執行猶予4年です」


判決をリレーして聞くために外で待機していた同僚記者が尋ねた。


「追徴金はどうした?」


「あれ? あれ?」


東京高裁刑事5部(若原正樹裁判長)は、福島県汚職事件で収賄罪に問われていた前知事の佐藤栄佐久被告と、共犯とされた弟の祐二被告に対して、一審の東京地裁による有罪判決を破棄、2人の刑を軽くすると同時に、一審判決が祐二被告に課した追徴金をゼロにする判決を言い渡した。収賄罪は賄賂額を追徴金で没収する。賄賂額認定は事件の核心だ。それを「証拠上不明」なのでゼロ査定にしたのである。


|賄賂金額がついに消滅

法廷記者たちが困惑したのも無理はなかった。メディアに配られた判決要旨もわかりにくかったが、本当の混乱の原因は、誰も予測していなかった判決内容そのものにあった。


解説記事が配信されたのは夜になってから。異例の遅さである。翌朝の新聞記事はさらに奇妙だった。有罪判決なのに、元東京地検特捜部長の宗像紀夫主任弁護人は、記者会見で「実質的な無罪判決だ」と勝ち誇っている。その隣に載っている東京高検渡辺恵一次席検事のコメントは「検察官の主張が受け入れられず遺憾」というもの。どっちが勝者かわからないほどのねじれぶりだった。


判決の骨格を見てみよう。東京地検特捜部は、栄佐久知事の「天の声」によって前田建設が木戸ダム工事受注に成功、その謝礼として意を受けた水谷建設が祐二の会社「郡山三東スーツ」本社工場の土地を8億7300万円余で買ったことをとらえ、時価との差益と、取引後に祐二被告から会社再建に必要との要請で水谷建設から追加で支払われた1億円の計2億円弱が賄賂だとして起訴した。一審の東京地裁は、追加の1億円は賄賂でないとしてばっさり削除。祐二に7300万円余りの追徴金を課した。すでに賄賂額の認定は半額以下になっていたのである。


東京高裁は一審判決にならい、栄佐久が県の坂本晃一元土木部長に「天の声」を発したと認め、弁護側が公判で立証した「知事室のアリバイ」(本誌10月号参照)については門前払いで退けた。その一方で、収賄額認定にあたり「天の声」とセットで収賄罪成立の要件となる、兄弟の「共謀」の中身に踏み込んだ。


判決は「土地売買の換金の利益を得るとの認識」にとどまるとして、「(時価との)差額の利益を得る意思連絡を認め、賄賂として受け取る旨の共謀まで認めたのは事実誤認だ」と一審判決を批判して破棄。しかも栄佐久については「利益を得る認識がない」とまで言い切った。


それでも「換金の利益」が賄賂だとして収賄罪自体は成立させたが、朝日新聞が「得たのは『無形のわいろ』だとする異例の判断を示した」と書いたように、これは曲芸的なレトリックと言える。しかもここに至って2億円近くあったはずの賄賂は完全に消滅してしまった。宗像弁護士は「8億7千万円の価値のある土地を、8億7千万円で売ったという実質だけが残った。これでは通常の売買だ。どんな犯罪性があるのか」と呆れている。


「換金の利益」とは「売れないものを買ってくれた」という意味で、収益は含まれない。収賄罪は「全体の奉仕者」である公務員の犯罪として厳格に適用されてきたが、換金の利益のみで収賄罪を成立させた判決は初めてだと思われる。


この土地の売却にあたっては、創価学会も会館建設用として興味を示し、現在はショッピングセンターとして盛業である。祐二に会社再建の資金が急場に必要だった事情があったにせよ、前田建設にどうしても買ってもらわなくてはならない土地ではなかったのだ。


収賄罪は成立しているが、中身はない。この、ある意味大変テクニカルな判決の書きぶりは、もはや事実などどうでもよいかに見える。


若原裁判長は1979年任官の司法修習26期。同期には、「君はさだまさしの『償い』という歌を知っているか」と法廷で説諭した山室惠(現東京大学法科大学院教授)、破産手続きの改革を行った園尾隆司判事といった大物裁判官がそろう。本人も司法研修所教官を務めるなど、東京まわりの裁判官のエリートである。転任した先々で派手な事件に当たり、死刑判決を2回出すなど厳しい判断も目立つが、前任地の大阪高裁では検察の裏金を明かした直後逮捕された三井環元大阪高検公安部長の詐欺・収賄事件を担当。実刑判決を出したが「被告の直接体験の限度で不正流用の事実があったといわざるを得ない」と裏金の存在を認めるくだりをわざわざ書き加えるなど豪胆さも併せ持つ。


この細心と雑駁が同居する判決を眺めると、有罪判決には仕立てたものの、中身をがらんどうにして、暗に「無意味な裁判」と言っているかに見える。矛先はもちろん東京地検特捜部である。一審有罪判決後、「控訴すれば完全勝利」と大見得を切って実刑を求めてきた特捜部は、焼けビルのごとく収賄罪の廃墟と化してしまった控訴審判決を前に、顔色をなくしているのだという。


|特捜検察の「悪夢」は続く?

さらに特捜検察を追い詰めるかも知れない「次の一手」はすでに打たれていた。判決直前の10月8日、弁護団は坂本晃一元土木部長を偽証罪で福島地検に告発した。受理されて東京地検に回付されている。


なぜ今、偽証罪なのか。ある可能性に思い至る。――仮に告発を受けた東京地検が不起訴にしたとする。不服申立により、市民で構成される検察審査会に付される。起訴相当の議決を再び不起訴にしたら……今まではそれで終わりだった。ところが、今年5月施行の改正検察審査会法で検察審査会が2回目の「起訴議決」に至れば起訴は義務になる。しかも検察官に代わって裁判所が指定した弁護士が起訴するのだ。これは、特捜部にとっては「悪夢」だろう。


この事件では談合罪でも告発が行われている。すでに3年の時効が成立しているはずだが、現在、祐二が起訴されているので時効は停止。一審・二審判決がわざと雑に扱ってきた「天の声」と談合の事実が、このルートで解明される可能性もある。


06年の知事辞職・逮捕以来、最近まで沈黙を守ってきた栄佐久は、著書『知事抹殺』(平凡社)の刊行やブログの開設、知事時代の後援者との会合を復活させるなど、名誉回復に向けた動きを見せている。宗像弁護士率いる弁護団による司法改革をテコにした「ウルトラC」が実を結ぶのか、それとも上告した最高裁で決着を見るか。予断を許さない。


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記事の転載を許諾くださったFACTA編集部に感謝を申し上げます。

コメント(2) スタッフ

福島県元土木部長の偽証罪、および競売入札妨害検察審査会への申立に関連しまして、昨年高裁判決前後に月刊FACTAに掲載された記事を転載させていただきます。

本10月号記事では、土木部長証言に関し、そのようなことは「なかった」ことの弁護団の証明を客観的に分析、紹介されています。


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■2009年10月号
【小沢捜査の「原点」福島知事汚職の爆弾】
東北談合の「天の声」は幻か。特捜検察の恣意的な捜査が、服役中の証人の携帯メールで暴露された。

「小沢一郎vs特捜検察」の闘いは、政権交代でいま最終局面にある。東京地検特捜部は小沢の政治資金の向こうに潜む、東北建設業界の根深い談合構造を暴こうとするが、手段を選ばない粗雑な捜査手法は、逆に自らの首を絞め、ゴールを見失うことになった。「常に権力と対峙する」輝かしい特捜の看板と実力のアンバランス――その合わせ鏡とも言うべき裁判が東京高裁で来月判決を迎える。前福島県知事・佐藤栄佐久が収賄罪に問われた「福島県汚職事件」の控訴審である。そこに「小沢捜査」失敗の原点が浮かび上がる。


東京地検特捜部が地方に首を突っ込んで、県知事を逮捕したこの事件。前知事と弟の祐二が共謀して県発注の木戸ダム工事の入札に便宜を図り、見返りに祐二の経営する「郡山三東スーツ」の本社・工場の土地を、ダム工事を落札した前田建設工業の意を受けた水谷建設が時価よりも高く買い取ることで、その差額を賄賂としたというのが特捜部の筋書き。東京地裁で行われた一審では昨年8月、栄佐久と祐二に対し、収賄罪で執行猶予つきの有罪判決を言い渡した。


「前田(建設)は熱心に営業しているようだな」。元土木部長、坂本晃一が知事室で栄佐久自身から聞いたという「天の声」である。この坂本の証言だけが、収賄罪成立の根拠なのだ。聞いた日は2000年1月7日と一審は認定した。逆にその日に会った事実がなければ無罪になる。弁護団の藤原朋奈弁護士は知事日程を洗い、控訴審では栄佐久の本人尋問で「密室のアリバイ」論証に挑んだ。名探偵の目で次ページの図をじっくり眺めていただきたい。


|知事室の「密室のアリバイ」

当日、知事は昼をはさんで県職員と外出しており、知事室がある2階にいたのは午前中と午後の計1時間55分。この間、「知事レク」と称する各部局によるレクチャーが、奥の特別応接室で5件立て続けに行われた。県庁の中で知事レクは重要な会議と位置づけられ、中止・中断は天災などの緊急事態と国会議員の挨拶があった場合に限られている。そのほか市町村長など挨拶が必要な外来者は、特別応接室の扉を開けて、知事は在室のまま対応する。


坂本は「知事レクの最中、飛びこみで知事に面会した」と主張するが、その前に坂本の直接の上司である副知事が必ず話を聞く仕組みがあり「飛びこみ」は無理。さらに知事レク中は、知事の日程を差配する秘書課が面会者を基本的に断る。しかし緊急性が高そうなものは秘書がメモにして知事のもとに持参、その場で知事が判断する。つまり坂本の面会申し込みが事実なら、秘書課の記録や課員の記憶に必ず残る。


仮に知事が坂本に会うと決め、会議を中座したとする。知事室には廊下に面した扉がないので、図のように貴賓室と執務室を横切って知事室に入る。知事の入室を秘書係長が同行して確認し、秘書課で待つ坂本を入れる。知事室の反対側の扉は秘書課に面し、坂本はそこから入る。


facta0910.gif


栄佐久は県民の間にカリスマ的な人気を誇ったが、手続きや段取りへの独特なこだわりは、見方によっては「暴君」にすら映り、秘書課は常にぴりぴりしていたという。本誌が入手した、当時の秘書課作成の「知事対応マニュアル」には、知事が行事で挨拶する際の祝辞の準備や段取りから人間ドックに入るときの公私の分け方、果てはメガネの拭き方や置き方に至るまで、事細かに決められていた。坂本に対してもルールが厳密に適用されたと考えられる。


いくら9年前の出来事だとしても、知事が席を外せば、知事レクに参加していた県幹部職員と知事に随行する秘書係長の記憶に残り、知事レクを止めた横紙破りの坂本の行為は、秘書課員たちに記憶されるだろう。知事と坂本の「密室」はありえない。知事室の「天の声」はなかったと見るのが自然と思える。


「これは『悪魔の証明』である」


最終弁論の冒頭、宗像紀夫主任弁護人はこう喝破した。それはストーリーに合わせて事実を枉(ま)げた特捜部によって「ないこと」の証明を強いられた憤りに加えて、数々の事件で検察の「看板」をつくってきた元特捜部長の怒りもこめられていたろう。これに対し検察側は、「(弁護側の立証は)『会っていないから会っていない』との主張にすぎない」と答えるにとどまった。


最終弁論の中で、弁護団はもうひとつの「爆弾」を炸裂させた。一審で「受注の礼に土地を高く買うのだと思った」と証言した水谷建設元会長の水谷功が「土地購入は受注の見返りだとした自分の検察調書と法廷での証言は、虚偽だった」と語っていることを明らかにしたのだ。


衝撃的だった。土地購入は賄賂だとの証言は「自らの脱税事件で実刑を回避するために“乗せられた”もの」で、木戸ダム工事受注の談合は実際に行われたが「受注は秋保(あきう)(温泉)で決まった」というのだ。「東北談合のドン」と称された仙台の有力ゼネコンOBと前田建設副会長と水谷、そして坂本の前に県土木部長職にあった県OBの江花亮が同席した99年5月の会合のことで、水谷の新証言は、秋保ですでに発注者の意向が示されていたことを強く示唆する。翌年1月に栄佐久が「天の声」を出すまでもなかったのだ。


|「知事は濡れ衣」とメール

さらに水谷は言った。「土地取引は自分が儲けようとしてやった。賄賂行為はない。知事は事件には関係なく、濡れ衣だ」。水谷は自らの実刑は免れないとみて「戦術を間違えた。話がしたい」というメッセージを、なんとメールで宗像弁護士の携帯電話に送りつけていた。「驚いた。同僚の弁護士に『メールを消さないで! 証拠を保全してください』と言われたけれど、どう操作すればいいか、わからなかったよ」と当の宗像は笑う。弁護団は脱税で三重の刑務所に服役中の水谷を訪ね、「出廷して正直に話してもいい」意向を確認して控訴審で証人尋問を申請した。ところが、東京高裁刑事5部(若原正樹裁判長)は却下したため、最終弁論でこの新証言を暴露した。


福島県汚職では贈賄側の時効が成立しており、特捜部はそれをテコにゼネコン関係者から都合のいい調書を多数とったようだ。その内幕が水谷の「告白」で明らかになった。かつての「政商」の威光を失い、刑務所で服役している水谷が、この期に及んでウソをつく動機はない。  


栄佐久は控訴審判決を前にした9月16日、手記『知事抹殺 つくられた福島県汚職事件』(平凡社)を出版し、特捜部の捜査や取り調べの実体験を語り明かした(48ページの書評参照)。そこにまざまざと浮かぶ特捜検察の実力不相応の背伸びと「脱線」は今も尾を引いている。政権交代で民主党の法務大臣を迎える羽目になった法務・検察は、尻切れになった小沢疑惑を立て直そうと、獄中の水谷を何度も尋問し攻めあぐんでいるという(90~91ページ参照)。焦りの色の濃い特捜検察を、東京高裁はどう見るのか。栄佐久の判決は10月14日に言い渡される。(敬称略)

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記事の転載を許諾くださったFACTA編集部に感謝を申し上げます。

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