私と弁護団は既述のとおり、元土木部長を偽証罪、および競売入札妨害にて東京地検へ告発を行いましたが、過日、不起訴との連絡を受けました。
私が業者の便宜を図るよう天の声を発したという「坂本証言」は私の事件における、唯一ともいえるの有罪の立脚点ですので、担当する東京地検としては偽証罪での起訴は出来ないのではないか、と我々は予測しておりました。不起訴を受け、我々は、6月16日、検察審査会への申し立てを行いました。
「坂本証言」は一切、裏付けるものがありません。「なかったこと」の証明は「悪魔の証明」といわれ、大変困難である中、弁護団の先生方はその事実が有り得なかったことを、私の指示を蓄積してマニュアル化されていた県庁のシステム的にも、物理的にも不可能であることを注意深く立証してくださいましたが、裁判においてはそれが吟味されることなく一蹴されております。
坂本氏に関しては本人の直接の現金の収受、さらに自宅の机の引き出しに2600万円もの現金が保管されていたことが明らかになっているにもかかわらず、不起訴となっております。
この2点について、事実に基づいて一般の市民の方の視点で再度判断をいただくべく、検察審査会への審査申立てを行った次第です。
以下、本申立てに関する宗像主任弁護士からのプレスリリースを掲載いたします。
マスコミ各位
佐藤榮佐久弁護団からのお知らせ
-坂本晃一の不起訴処分を検察審査会へ審査申立-
1 坂本晃一にかかる告発事件の不起訴処分に対する検察審査会への申立について
申立人佐藤榮佐久は、かねてから被疑者坂本晃一を競売入札妨害罪及び偽証罪で東京地方検察庁検察官に対し告発していたところ、同検察官は平成22年4月19日同人を不起訴処分に付した。申立人佐藤榮佐久は、この処分に不服であるので、本日(平成22年6月16日)東京検察審査会に対し審査の申立てを行い受理された。
なお、被疑者坂本にかかる競売入札妨害事件とは、平成18年福島県発注にかかる流域下水道工事のいわゆる談合事件であり、偽証事件とは、平成19年8月24日申立人佐藤榮佐久にかかる収賄事件の法廷での宣誓の上、その事実がないのに記憶に反して、木戸ダム工事の発注に関し前田建設に受注させるように申立人佐藤榮佐久から示唆・指示された旨偽証した事実である。
2 その他参考事項 検察審査会への申立の理由等について
申立人佐藤榮佐久は、元福島県知事であるが、身に覚えのない収賄事件で東京地検特捜部に逮捕、起訴され、第一審及び控訴審において有罪判決を受けたが、無罪を主張して上告し、事件は現在上告審係属中である。なお、検察官も上告している。
申立人佐藤榮佐久にかかる収賄事件は、検察官の主張によれば、申立人は実弟祐二と共謀の上、福島県発注にかかるダム工事業者の選定にからんで、前田建設株式会社に便宜を与えた見返りに、祐二が経営する会社の時価8億円の土地を受注業者らに9億7000万円で買って貰ったことによる換金の利益及び時価と売買代金との差額約1億7000万円を収賄したというものである。
その主たる証拠は、実弟の捜査段階の供述と元福島県土木部長であった被疑者坂本晃一の供述であった。実弟は、検察官の連日の威圧的な取調べによって自白を強要され申立人と収賄を共謀した旨の虚偽の自白をし、また被疑者坂本は、事実がないのに検察官に対し、自己の本件被疑事件を不起訴にすることの見返りに、申立人の刑事事件を裏付けるような虚偽の供述をしたものと認められる。
すなわち、被疑者は自己の刑事責任を免れることと引き替えに無実の申立人を検察官に売り渡したのではないかとの疑念が払拭できない。検察官は、被疑者からこのような供述を獲得するために、当然起訴しなければならない被疑者の本件被疑事件を不起訴にしたのではないか。このようなことでは正義は実現できないと考える。
(なお、申立人の収賄事件は、第一審、控訴審を経て、検察官主張の収賄額、すなわち時価との差額約1億7000万円は完全に否定され、「ゼロ」と認定され、土地を現金に換えた利益のみが収賄だとする前代未聞の判決となっている。)
(1)本審査申立てに至る経緯
申立人佐藤榮佐久は、平成21年10月8日、福島地方検察庁に対し、被疑者に、競売入札妨害罪(刑法96条の3第2項)及び偽証罪(刑法169条)の犯罪事実が認められるとして刑事告発をしたが、福島地方検察庁は、同年10月28日、これを東京地方検察庁に移送した。そして、平成22年4月19日、東京地方検察庁は申立人に対し、被疑者を不起訴処分とした旨を通知した。この間、東京地方検察庁がこの告発事件についてどの程度の捜査を行ったのかについては申立人(告発人)は聞知していないが、東京地方検察庁が、少なくとも申立人及び祐二などから聴取した事実はなく、綿密な捜査を行った形跡は認められない。
(2)競売入札妨害罪について
被疑者は、平成18年9月25日、競売入札妨害(談合)罪の「共犯」として逮捕されたが、同時期に逮捕された祐二、門脇進、辻政雄、佐藤勝三らが公判請求されたのに、被疑者一人だけが、同年10月15日処分保留で釈放され、不起訴処分に付されている。
被疑者は、辻とともに多数の工事の談合に実質的に関与しており、本件談合事件においては、東急建設の門脇進に対して入札予定価格を漏示するという重大な違法行為をした上、業界内を取りまとめるよう教示し、部下に便宜を図るよう指示するなど本件談合事件の主役ともいえる立場で関与しており、極めて悪質な犯行とみられるものであった。このような重要な役割をはたした「被疑者だけ」が起訴されないなどということは、通常は考えられないことである。
さらに、被疑者は、土木部在職中などには、辻から直接、あるいは祐二を介して現金合計600万円を受け取っていた。また、被疑者名義の預金通帳には多数回にわたり、頻繁に百万単位の現金の出し入れが記帳されており、自宅の机の引き出しには2600万円にも及ぶ現金が輪ゴムで止めたまま保管されていたのである。
これらの事実に鑑みれば、被疑者が、辻らと談合行為を繰り返していく中でこれらの現金を蓄積していった疑いが濃厚であり、検察官も、その不審な現金の蓄積について把握していた。
ところが、検察官は、あえて、この疑念を解明することなく、これだけ悪質な談合関与行為を起訴することなく処分保留で釈放し、不起訴処分に付したのである。
(3)偽証罪について
被疑者を逮捕した東京地検特捜部は、被疑者の預金通帳に記帳されていた多額の現金の出し入れ履歴から、被疑者が、辻らと談合行為を繰り返していく中でこれら多額の金を蓄積していった疑いが濃厚であることを把握していたことは、上述のとおりである。
検察官が取調べにおいて上記事実をてこにして被疑者を厳しく追及したところ、被疑者は次第に追いつめられ、「すべてを見透かされている気」になり検察官に抵抗することをあきらめ、検察官に迎合する供述を行うようになったものと思料される。
そして、被疑者は釈放間際、申立人が木戸ダム工事を前田建設に受注させるように示唆した旨を検察官に供述し、この供述直後に釈放された。
釈放後、日ごとに上記に関する被疑者の供述内容が次第に詳細になり、具体的になっていったという供述経過をたどっている。
さらに、被疑者は、公判前、不自然なほど多数回に及ぶ検察官の証人テストに応じ、検察官との間で証言内容について徹底的にすり合わせを行った。その上、証人テストのために上京した都度、出頭に要する交通費等の支弁をうけるなどの特別な待遇を受けていたのである。
他方、被疑者は、弁護人の証人テストには容易に応じず、再三の申し入れに対して、ようやく弁護人の証人テストには1回応じたものの、自らの弁護人を付き添わせるという異常なものであった。共犯者であるはずの被疑者に対するこれらの特権的な取り扱いは、異常というべきである。
以上のとおり、本来は起訴すべき被疑者坂本晃一にかかる本件被疑事件を不起訴処分にした検察官の処理は明らかに誤っているので、検察審査会の公正な審理を求め、申立に及んだものである。